味噌を仕込む豊かな時間 手作り味噌の始め方
日々の忙しさから離れて、心穏やかな時間を持つことは大切です。スマートフォンを置いて、五感を使い、一つのことにじっくりと向き合うアナログな時間は、私たちに深い満足感を与えてくれます。
今回は、日本の食卓には欠かせない「味噌」を、ご自宅で手作りする魅力とその始め方をご紹介します。材料はシンプルですが、そこに込められた手間ひまが、やがて豊かな風味を生み出すのです。
手作り味噌とは
手作り味噌は、主に大豆、米麹、塩の3つの材料から作られます。これらの材料を混ぜ合わせ、適切な環境で長い時間をかけて発酵・熟成させることで、あの独特の旨味と香りが生まれます。
市販の味噌にはない、手作りならではの優しい味わいや、年ごとに変わる風味の違いを楽しむことができます。また、添加物を使わずに作れるため、安心感があるのも大きな魅力です。
手作り味噌を始めるために必要なもの
特別な道具はほとんど必要ありません。ご家庭にあるものや、手軽に入手できる材料で始めることができます。
- 材料:
- 大豆: 乾燥大豆を使用します。(例: 1kg)
- 米麹: 生麹または乾燥麹。(例: 1kg)
- 塩: 天然塩がおすすめです。(例: 500g程度)
- 種味噌(あると便利): 少量の市販味噌や前年に作った味噌。発酵を助けます。
- 道具:
- 大きめのボウルや鍋: 大豆を煮る、材料を混ぜ合わせるために使います。
- 圧力鍋または普通の鍋: 大豆を柔らかく煮るために必要です。
- フードプロセッサーまたはすり鉢: 煮た大豆を潰すために使います。
- 清潔な保存容器: 味噌を仕込むための容器。ホーロー、ガラス、カメなどが適しています。(例: 4L〜5L程度)
- 重石: 味噌の上に置いてカビを防ぎます。(例: ビニール袋に塩を入れたもの、市販の重石)
- 保存用ラップ、ビニール袋
- 計量カップ、はかり
最近では、材料や詳しいレシピがセットになった「手作り味噌キット」も市販されており、初心者の方でも気軽に始めやすくなっています。
手作り味噌の基本的な始め方・手順
仕込み作業自体は1日あれば完了します。発酵・熟成期間は半年から1年程度が一般的です。
- 大豆を準備する:
- 乾燥大豆をよく洗い、たっぷりの水に一晩(10時間以上)浸します。大豆が水を吸って約2〜3倍に膨らみます。
- 大豆を煮る:
- 大豆を圧力鍋または鍋に移し、新しい水を加えて柔らかくなるまで煮ます。圧力鍋なら加圧後20分程度、普通の鍋なら3〜4時間、指で簡単に潰れるくらいが目安です。煮汁は少量取っておきます。
- 大豆を潰す:
- 煮あがった大豆の粗熱を取り、フードプロセッサーやすり鉢を使って、ペースト状になるまで潰します。粒々が残るくらいでも大丈夫です。温かいうちに作業すると潰しやすいです。
- 麹と塩を混ぜる(塩切り麹を作る):
- ボウルに米麹と塩を入れ、手でよく混ぜ合わせます。塩が麹全体に行き渡るように、塊をほぐしながら混ぜるのがポイントです。まるで砂遊びをするように、サラサラになるまで丁寧に混ぜ合わせます。
- 材料を混ぜ合わせる:
- 潰した大豆、塩切り麹、必要であれば種味噌を大きなボウルに入れ、均一になるまでしっかりと混ぜ合わせます。耳たぶくらいの固さになるように、手順2で取っておいた煮汁を少しずつ加えて調整します。この混ぜる作業は、材料が均一になるように、手全体を使って揉み込むように行うと良いでしょう。この時点で、もう味噌らしい香りがほんのりと漂ってきます。
- 容器に仕込む:
- 清潔な保存容器の内側をアルコールなどで拭きます。混ぜ合わせた味噌を、容器の底に空気が入らないように強く押しつけながら詰めていきます。握りこぶし大に丸めて、容器の底にたたきつけるように入れると、空気が抜けやすくなります。これを繰り返して、表面を平らにならします。
- 表面にカビ防止の塩(分量外)を薄く振りかけ、容器の内側に沿ってラップをぴったりと貼り付け、空気を遮断します。
- 重石を置く:
- ラップの上から重石を置きます。これは、味噌から出る水分(たまり)を上げて表面を覆い、カビの発生を防ぐためです。
- 熟成させる:
- 直射日光の当たらない、風通しの良い涼しい場所(一年を通して温度変化の少ない場所が理想的)で熟成させます。
- 夏を越して半年〜1年ほどで食べられるようになります。途中で表面にカビが生えた場合は、取り除けば問題ありません。
手作り味噌で得られる豊かな時間
手作り味噌の一番の魅力は、仕込みから完成までの「待つ時間」「育てる時間」そのものです。
大豆を煮る時の香り、麹と塩を混ぜる時の感触、そして仕込んだ後、カメの中で静かに発酵が進む様子を想像する時間。時々様子を覗き、天地返し(表面と底の味噌を入れ替える作業)をすることで、より美味しくなるように手をかける。
デジタルデバイスから離れ、五感を研ぎ澄まし、目の前の作業に集中することで、心が落ち着き、充実感が生まれます。発酵という自然の力に委ねながら、ただひたすら待つ。この待つ時間は、現代のせわしない日常では得難い、ゆったりとした豊かな時間となるでしょう。
そして、熟成が進み、いよいよ蓋を開けて味噌と対面する瞬間。仕込んだ時の色とは全く違う、深い茶色になった味噌の姿を見た時の感動と達成感は格別です。自分が手をかけたものが、時間を経て素晴らしいものに変化した喜びを、きっと感じていただけるはずです。
自家製味噌の楽しみ方と発展性
完成した自家製味噌は、いつもの味噌汁はもちろん、味噌炒め、味噌漬けなど、様々な料理に使ってその風味を堪能できます。ご家族やご友人に「これ、私が作ったのよ」とふるまうのも楽しい時間です。
また、一度手作り味噌を経験すると、大豆の種類を変えたり、麹の種類(米麹、麦麹、豆麹)を変えたりして、様々な風味の味噌づくりに挑戦したくなります。それぞれの材料や環境で、全く異なる味わいになるのも手作り味噌の奥深さです。
地域によっては、公民館などで味噌づくり教室が開催されていることもあります。同じ趣味を持つ人たちと一緒に仕込むのも、情報交換ができたり、作業を分担できたりと、また違った楽しさがあります。
まとめ
手作り味噌は、材料を混ぜ合わせ、時間をかけてじっくりと育てていくアナログな趣味です。仕込みの作業に集中する時間、そして発酵を静かに待つ時間は、スマートフォンから離れて、自分自身と向き合う大切な機会を与えてくれます。
完成した時の喜びと、自分で作った味噌を使う安心感、美味しさは格別です。ぜひ、この手間ひまをかける豊かな時間を通して、自家製味噌のある暮らしを楽しんでみてはいかがでしょうか。