手軽に始める和綴じ入門
はじめに:和綴じで味わう、心穏やかな時間
日々の暮らしの中で、ふと立ち止まり、自分の手だけを使って何かを作り出す時間を持つことは、大きな心のゆとりをもたらします。スマートフォンの画面から目を離し、静かに紙や糸に触れる。そんなアナログな時間の過ごし方として、「和綴じ」はいかがでしょうか。
和綴じとは、日本の伝統的な本の綴じ方です。特別な道具は必要なく、紙と針、糸、そして少しの手間ひまがあれば始められます。この素朴な手仕事に没頭する時間は、慌ただしさを忘れさせてくれるでしょう。今回は、初めての方でも手軽に挑戦できる和綴じの基本をご紹介します。
和綴じとは? その魅力
和綴じは、紙を二つ折りにしたものを重ねて、糸で綴じる製本方法です。古くから日本の文書や書籍に用いられてきました。その魅力は、以下の点にあります。
- 手軽さ: 特殊な機械は不要で、身近な道具で始められます。
- 美しさ: シンプルながらも独特の風合いと美しさがあります。
- 実用性: 手で開いたときに平らになりやすく、書き込みや閲覧がしやすい構造です。
- 集中できる時間: 黙々と紙に穴を開け、糸を通して綴じていく作業は、心を落ち着け、集中力を高めてくれます。
スマホやパソコンから離れ、一枚一枚の紙に触れ、糸を引く。この一連の動作は、五感を使い、今この瞬間に意識を向けるマインドフルネスのような効果も期待できるでしょう。
初めての和綴じにおすすめ:四つ目綴じ
和綴じにはいくつかの種類がありますが、初めての方におすすめなのは「四つ目綴じ」です。最も基本的な綴じ方で、比較的簡単な手順で製本できます。今回は、この四つ目綴じを例にご紹介します。
必要な道具と材料
手軽に始められるのが和綴じの良いところです。まずは、以下のものを用意しましょう。
- 紙: ノートにしたい紙。コピー用紙、奉書紙、和紙など、お好みのものを用意します。本文用紙としてA4サイズを数枚(10〜20枚程度)、表紙と裏表紙用の少し厚めの紙(本文用紙と同じサイズか、一回り大きいもの)を各1枚用意します。
- 糸: 和綴じ用の木綿糸や麻糸が一般的ですが、手芸用の丈夫な木綿糸でも代用できます。色は、紙や表紙の色に合わせて選ぶと楽しいでしょう。綴じる辺の長さの約4〜5倍の長さを用意します。
- 和綴じ針: 本来は和綴じ用の針を使いますが、なければ糸が通る太めの木綿針や、手芸用の綴じ針でも可能です。
- 目打ち: 紙に穴を開けるための道具です。先端が尖ったものを用意します。
- カッターナイフ、カッターマット: 紙を裁断したり、穴を開ける作業台として使います。
- 定規: 穴を開ける位置を決めるのに使います。金属製だとカッターを使う時に便利です。
- 鉛筆: 穴の位置に印をつけるのに使います。
これらの道具は、ほとんどが100円ショップや文房具店、手芸店で手に入ります。
四つ目綴じの基本的な手順
それでは、実際に四つ目綴じで小さなノートを作ってみましょう。
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紙を準備する: 本文用紙と表紙、裏表紙をそれぞれ二つ折りにします。本文用紙は重ねて折るとずれることがあるので、数枚ずつ折ると綺麗に仕上がります。折った紙の「わ(輪)」になっていない開いている方が、本を綴じる側になります。全ての紙を重ね、綴じる辺がきっちり揃うように整えます。
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穴の位置を決める: 重ねた紙の綴じる辺に、鉛筆で穴を開ける位置に印をつけます。四つ目綴じでは、一般的に端から約1〜1.5cmのところに上下2箇所、その中間を2等分または3等分した位置に2箇所の、合計4箇所に印をつけます。定規を使って正確に測り、ずれがないように丁寧に印をつけましょう。この穴の位置が本の見た目を左右します。
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穴を開ける: 重ねた紙をカッターマットの上に置き、印をつけた箇所に目打ちを使って垂直に穴を開けます。一番下の紙までしっかりと貫通させることが大切です。この時、机や指を傷つけないように注意しましょう。ゆっくりと、すべての穴を開けていきます。紙に目打ちが通る感触を楽しみましょう。
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糸で綴じる: いよいよ糸で綴じていきます。糸に和綴じ針を通します。糸の端は玉結びにせず、しばらく長めにとっておきます。
- 左下の穴から針を表に出します。この時、糸の端(結び目がない方)を10cmほど残しておきます。
- 本の背(綴じる辺)を回り、同じ左下の穴の裏側から針を再度通し、糸端を押さえます。これで、糸端が固定されます。
- 次に、上から二番目の穴を表から裏へ通します。
- 上から三番目の穴を表から裏へ通します。
- 右下の穴を表から裏へ通します。
- 本の小口側(開く側)を回り、右下の穴の裏側から針を表に出します。
- 本の背を回り、右下の穴の表側から再度針を裏に通します。これで右下の穴が補強されます。
- 上から三番目の穴を裏から表へ通します。
- 上から二番目の穴を裏から表へ通します。
- 左下の穴を裏から表へ通します。これで、綴じ始めの左下の穴に戻ってきました。
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糸を結んで仕上げる: 綴じ始めに残しておいた糸端と、今綴じ終わった糸を、左下の穴のすぐ近くでしっかりと結びます。二、三回固結びをして、余分な糸を切り落とせば完成です。
手順だけ見ると難しく感じるかもしれませんが、実際に手を動かしてみると、意外と単純な繰り返し作業であることが分かります。一つ一つの穴に糸を通すたびに、本が形になっていくのを感じられるのは、和綴じならではの喜びです。
和綴じで作れるもの、発展性
基本的な四つ目綴じをマスターしたら、様々なものに応用できます。
- 自分だけのノート: 好みの紙や表紙で作るオリジナルノートは、書く時間をさらに特別なものにしてくれます。日記帳、レシピ帳、読書ノートなど、用途に合わせてサイズや紙を変えてみましょう。
- 御朱印帳: 蛇腹式ではなく、和綴じで作られた御朱印帳も趣があります。
- 古い本の修理: 和綴じの技術は、傷んだ和本を修復する際にも役立ちます。
- 写真集や作品集: 厚手の紙を使えば、写真やイラストをまとめてオリジナルの本にすることも可能です。
慣れてきたら、「亀甲綴じ」や「麻の葉綴じ」といった、より複雑で装飾的な綴じ方にも挑戦できます。糸の色を変えたり、表紙に凝ったりと、工夫次第で表現の幅は無限に広がります。
まとめ:和綴じが生み出す、自分だけの時間
和綴じは、特別な場所に行かなくても、自宅で気軽に始められるアナログな趣味です。スマートフォンの通知に邪魔されることなく、ただ黙々と針を動かす時間は、驚くほど心を落ち着けてくれます。
一冊の本が自分の手によって形づくられていくプロセスは、小さな達成感と満足感を与えてくれるでしょう。完成した本は、きっとあなたにとってかけがえのない一冊となるはずです。ぜひ、紙と糸、そして少しの時間を用意して、和綴じの世界に触れてみてください。